ダーリンのおぱぁい大作戦!

エピローグ

 放課後、寮に戻ったところで、輪はメイドに迎えられた。

「おかえりなさい」

「ん? ああ、沙織か。今日はメイドモードなんだな」

 部屋でメイドと遭遇する生活にも慣れつつある。ご主人様は洗濯用の籠から下着だけ回収し、別の籠へと放り込んだ。

「……沙織じゃないわよ、わたし」

「へ?」

 しかし本日のメイドはどういうわけか、閑が扮したものだった。おまけに定番の給仕服ではなく、純白のスクール水着に清楚なエプロンを重ねている。ふくよかな胸はスクール水着に収まりきらず、彼女の指が肩紐を少し引くだけで、零れそうになった。

「こ、こういうの……好きなんでしょ? ダーリン」

 閑の頬が朱色に染まる。

「いっいやいや! 急にどうしたんだ、閑?」

 それ以上に輪は真っ赤になってしまった。目のやり場に困って、そっぽを向く。

 けれどもメイドはひとりではなかった。黒江と優希もスクール水着にエプロンというご奉仕スタイルで、ベッドに座っている。

「しずかに聞いたの。りんが……れんちゃんとデキてるって」

「ボクも怪しいとは思ってたんだよねぇ。ダーリンちゃんとすっごく仲いいし」

 うろたえつつ、輪は妹のことを思い出した。

(オレと蓮が、なんだって?)

 しかし兄妹として、世間一般の範疇から外れているとは思えない。むしろ弟の布団に平気で潜り込んでくる、姉のほうが困ったものだった。

 輪の102号室に澪と、メイドの第一人者である沙織も入ってくる。

「あ、あたしまで、こんな恰好でお世話するんですか?」

「もちろんですわ。ダーリンさまにお喜びいただいてこそのメイド、ですもの」

「おおっ、押さないでください!」

 沙織はメイドスイッチがオンになっていた。そんな彼女に背中を押されながら、恥ずかしそうに澪はエプロンの裾を両手でしっかりと押さえる。

 これでスクール水着のメイドは五人となった。

「今日はみんなで大サービスしちゃうわね、ダーリン」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……なんで、五月道まで一緒になって、こんなこと……」

輪は四方からじりじりと追い詰められ、ベッドの中央で尻餅をつく。

 左から優希が飛びついてきた。

「ダーリンちゃんが妹じゃない女の子にも興味を持てるようにって、閑ちゃんがね。ボクとしても、たまにはカラダの女子力、ダーリンちゃんに見せなくちゃだし」

 ご主人様の右には沙織がしとやかに腰を降ろす。

「わたくしはダーリンさまを癒して差しあげたいだけですわ。お疲れでなくて?」

 さらに左足には黒江がもたれ掛かってきた。

「れんちゃんになくて、私たちにあるもの……それは、これ」

「し、しょうがありませんね。今回だけですよ? ダーリンくん」

 右足には澪が遠慮がちに近づいてきて、強気ではいられない上目遣いを迷わせる。

 黒江が『これ』と言ったのは、間違いなく胸のことだった。学園指定のスクール水着では包みきれない果実が、その量感だけで谷間の深さを強調する。

 無為意識のうちに輪はごくりと生唾を飲みくだした。

(すげえな、やっぱ……)

 短いエプロンの裾からは、あられもないフトモモが惜しみなく晒されている。なだらかな曲線と張りのよさが、無防備な色気を醸し出して、輪の視線を誘った。

 おずおずと閑が正面から迫ってくる。

「ダ、ダーリン……前にみんなに、その……触りたいとか、言ったんでしょ?」

 そして緊張気味にスクール水着の肩紐に手を掛け、右だけでなく左も、肘までずらしてしまった。スクール水着が胸から剥がれそうになるのを、細い腕でぎりぎり止める。

 沙織も同じように肩紐をずらし、両手で豊乳をじかに包んだ。

「覚悟ならできてますわ。どうぞ、わたくしのも……」

 半裸のメイドが増えるたび、輪は目を見開く。

「閑、沙織……」

 ひとりでに鼓動が跳ねあがった。全身に熱がまわり、思考は衝動によって妨げられる。

 優希と黒江もアイコンタクトで頷きあってから、一枚だけの薄生地を剥がした。危うく零れそうになった生乳を、エプロンの裏面で受け止める。

「まさか、またダーリンちゃんとオママゴトすることになるなんて……ほぉら、優希ママのおっぱいが欲しいんでちゅかー?」

「くろえママも頑張る……ちょっとくらいなら、いいよ? だーりん」

 満面に多感な恥じらいを浮かべながら。

 とうとう澪までスクール水着をずらし、裸の胸をかき抱いた。

「せ……責任は取ってもらいますからね? ダーリンくん」

五人分の巨乳、合計で十個もの魅惑の膨らみに囲まれては、輪も理性など保っていられない。いつしか真剣な顔つきにさえなって、メイドたちの水着姿に見惚れていた。

「じ、じゃあ……みんな、おっぱいを揉ませてくれ」

 メグレズの術ではなく、自らの意志と言葉で、欲求する。

 ご主人様はメイドの閑に目をつけ、手を伸ばした。

「ダーリン、や……優しくして?」

健気なメイドの頭を撫でてやってから、おもむろに首筋、鎖骨へと指を這わせる。その手は躊躇いながらも、閑の腕をのけ、たわわな巨乳を鷲掴みに掛かった。

 

「きゃああああああ~っ!」

 悲鳴とともに閑は飛び起きる。

 時計の針は深夜の二時過ぎを差していた。壁越しに沙織の声が聞こえてくる。

「どうしましたの? 閑さん。すごい声でしてよ」

「あ……ごめんなさい。またおかしな夢を見ちゃって……」

 とんでもない夢だった。閑は真っ赤になった顔を布団に潜り込ませる。

 身体は火照って、しっとりと汗ばんでいた。いやらしいことを考えるつもりなどないのに、破廉恥な夢の内容を思い出しては、悶々とする。

(男の子って、あんなふうに触ったり……す、するのかしら?)

 疼いてならなかった。それでも軽く指を噛んで、ブレーキを掛ける。

「やだ、わたしったら……どうかしてるわ」

 輪の影響が大きいに違いなかった。普段のセクハラのみならず、あのスケベカイーナで散々エッチな目に遭わされたせいで、すっかり敏感になってしまっている。

 このままでは本当にエッチな女の子になってしまうかもしれない。

「輪だけが悪いんじゃないって、わかってるけど……」

 一之瀬閑、高校二年の夜。

 いつぞやの『王子様』モードのダーリンなら受け入れてしまいそうで、怖かった。

 

 

 翌朝、輪は寮の前で、沙織から制服の上着を受け取る。

「アイロンも掛けておきましたわ」

「サンキュ。悪ぃな、そこまでしてもらって」

プラネタリウムで蓮に被せた一着だった。たまたま司令室に居合わせた沙織に、愛煌が持たせたらしい。

「可愛いわね、蓮さん。とても輪さんの妹とは思えませんわ」

「よく言われるよ。あいつは頭がいいし、スポーツ万能だし……」

 203号室から澪も降りてきた。

「おはようございます。ふたりとも、ゆっくりですね」

 輪は上着を羽織りつつ、相槌を打つ。

「今朝はチア部、朝練ないんだな。優希と黒江はとっくに行ったぜ。水泳部のほうもそろそろ忙しくなるみたいでさ」

「わたくしの吹奏楽部も、もっと熱心に取り組むべきだと、思いませんこと?」

 朝の挨拶ついでに話し込んでいると、閑に無言で追い越された。穏やかな彼女らしくもない淡泊な様子に、輪たちは揃って首を傾げる。

「閑? なんだ、調子でも悪いのか」

「……輪」

 意を決したような顔で閑が振り向いた。しかし輪を見ようとはせず、視線を逸らす。

「ごめんなさい。あなたとはしばらくの間、距離を置きたいの」

 あまりに唐突で、何を言われたのか、わからなかった。

「は、はあ?」

「遊園地の約束も忘れて。それじゃ、お先に」

 一方的に別れを告げられる。

「ちょっ、なんのことだ? エンタメランドに行こうってのも別に決まったわけじゃ」

当然、それ以前に交際などしていなかった。輪は混乱し、慌てふためく。

澪と沙織には疑いのまなざしを向けられながら。

「ふぅーん……そういう関係だったんですか。知りませんでした」

「こんな朝から別れ話だなんて……閑さんに何をなさいましたの? 輪さん」

 その間にも閑はひとりで行ってしまった。

「ま、待ってくれ、閑~!」

 ふられた男の叫びが木霊する。

 ひとつの恋が終わった。

前へ     

※ 当サイトの文章はすべて転載禁止です。