宇宙屈指さをサラスBODY 1

 かつて力の神がその剛力をもって、大地を砕いた。

 ファースト筋パクトである。

 やがて大地の欠片は星となり、銀河に繁栄をもたらした。だが、水の星と砂の星との激突が、大異変をもたらすこととなる。

 砂の星にある砂は、すべてプロテインだった。水の星がぶつかったことで、プロテインは液化しつつ、銀河全体に広がったのである。

 それがセカンド筋パクトと呼ばれる、天変地異であった。

 ひとびとは普通に暮らすだけでも、大気中からプロテインを摂取していることに。

無論、相応の運動をしないことには、脂肪ばかり増えてしまう。そこでトレーニングが奨励され、男も女も身体作りを日課とした。

 

 女だけが住むアマゾネス星でも、女たちは日々の鍛錬に汗を流す。

 中でも王女のサラス=バディ子は、逞しくも美々しい肉体を誇った。熟練の女戦士たちさえ、バディ子に土をつけることは難しい。

 今日の試合でも、バディ子は華麗に宙を舞った。

「チェストォー!」

「ごはっ!」

 まわし蹴りが相手の延髄に決まる。

「お見事です、王女様! さすがアマゾネス星一の使い手でございますね」

「当然よ。もっと強い相手はいないのかしら?」

 バディ子の日々は充実していた。

 身体を鍛え、技を磨き、己の強さを実感する。女の美しさにも艶が出てきた。しかし最近は憂鬱な時間が多くなり、溜息を漏らさずにいられない。

「はあ……」

 女だけのアマゾネス星と、男だけのバーバリアン星とで、じきに合コンが催される。アマゾネス星の王女サラス=バディ子も、そこでバーバリアン星の王子たちと面会することになっていた。その誰かが、ゆくゆくは結婚の相手となるだろう。

 だが、合コンで相手を決めるなど、バディ子にとっては御免だった。

 生涯の伴侶となるのだから、相応しい相手を自分で探したい。それも、強い男を。

(合コンなんかじゃ、理想の男なんて見つからないわ。だったら……)

 バディ子は城の屋上にあがって、両方の脇を広げた。

その脇から蝶のような羽根が生え、バディ子を宇宙へと導く。白昼堂々と始まった王女の家出には、家臣たちも唖然とした。

「いけません! お戻りください、王女様!」

「明日はバーバリアン星の王子たちと合コンですぞ! お気を確かに!」

 彼女らの制止に耳など貸さず、バディ子は銀河でもっとも大きな闘技場を目指す。

 

 ギャランドゥ・トーナメント。銀河じゅうの猛者が一同に介し、激闘を繰り広げるための舞台があった。まずは予選、サラス=バディ子はCブロックで出番を待つ。

 最初の対戦相手は、身長190センチの巨躯を誇る女傑、モリーチだった。女だてらにモヒカンを決め、身体は厚い筋肉で固めてある。

「フフフ……そんなヤワなカラダでわたしと戦うつもりなんてねェ」

「どうかしら? 油断してたら、痛い目に遭うわよ。マッスルビューティーさん」

 ゴングが鳴った。

「とっとと二回戦に進ませてもらおうかねぇ!」

 体格の差ではバディ子が圧倒的に不利。しかし俊敏さでは上まわり、モリーチの後ろを取る。モリーチは肘鉄で返そうとするものの、バディ子の手刀が先に決まった。

「ここだわっ!」

「ぐう?」

背中の一点を突かれただけで、モリーチの身体が痙攣する。

 観客のひとりが驚きの声をあげた。

「あ、あれはまさか、刺送点穴(しそうてんけつ)!」

「知っているのか、貴殿」

「うむ……筋肉の神経が集中する一点に刺激を与えることで、一時的に肉体の動きを封じる、幻の秘技でござる。よもや、まだ使い手が残っていようとは……」

 動けなくなったモリーチを、後ろからバディ子が抱えあげた。

「ふ、ふん! あなたのような小娘に、わたしが持ちあげられるとでも……?」

「侮らないで!」

 モリーチの足が地面を離れる。ついに巨体が浮きあがった。

「でやあああああっ!」

 バディ子の身体が弓なりに反って、モリーチを脳天から突き落とす。

 美麗なスープレックスが決まった。すかさず、審判が大声でカウントを読む。

「1、2、3!」

 試合が始まって、ほんの二十秒ほどのことだった。

「やったわ!」

 バディ子は意気揚々とこぶしを振りあげ、勝利に酔いしれる。

 試合のあと、モリーチが歩み寄ってきた。大きな手で握手を求めてくる。

「見かけによらず、いいガッツだったわァ。わたしの完敗よ」

「あなたのパワーもすごかったわ」

 バディ子とモリーチの間で固い握手が交わされた。

「それにしても……アマゾネス星の王女が、なんだって、この大会に出場したわけ?」

「男探しよ。どうせなら、強いひとと結婚したいでしょ」

 バディ子は誤魔化さず、正直に白状する。

 ツボに入ったのか、モリーチは低い声で大笑いした。

「うふふふっ! いいわねえ。けど、今回の大会、怪しい動きがあるって噂よォ」

「どういうことかしら、それ?」

「おかしな選手が出場してて、すでに何人も再起不能にされてるらしいの。あなたも気をつけたほうがいいわ」

 モリーチと話し込んでいるところへ、馴染みの顔が近づいてくる。

「やあ、バディ子。君の美しさは全身脱毛の成果かな?」

 バーバリアン星の王子のひとり、アラハムキ。幾度となくアマゾネス星との親善試合に出場しては、類稀な肉体美を見せつけた。

 サラス=バディ子の美しさに惚れ込んでおり、プロポーズも一度や二度ではない。

 しかしバディ子にとって、アラハムキなど眼中になかった。自分より弱い以上、バディ子の婿たる資格はないのである。

「次は俺の試合なんだ。惚れるなよ? バディ子」

「はいはい。頑張れば?」

 アラハムキはリングにあがり、全身の筋肉を力ませた。

 これがアラハムキの特技、ビルドアップ。筋力を増強し、攻撃力を倍増させる。

 相手は黒タイツの男だった。顔の下半分をマスクで覆っている。

「コホー、コホー」

「初戦の相手がこんなガリガリとはな。ふっ」

 けたたましくリングが鳴った。アラハムキが自慢の剛腕を振りあげる。

 しかし厚い筋肉で固めた身体は、敏捷さに欠けた。タイツ男のほうがフットワークが軽く、アラハムキのパンチを難なくかわす。

 そのままタイツ男はアラハムキの右腕に巻きついた。

「コホー!」

「ぐおおおっ?」

 一瞬のうちに関節を極められる。

 たった一撃で、アラハムキの巨体はくずおれた。タイツ男が声援に応える。

「コホーッ!」

 バディ子とともに観戦していたモリーチが青ざめた。

「あれが噂の……ダークプロテインの戦士?」

「なるほど。例のやつらってわけね」

 味気ない予選に退屈していたバディ子は、にんまりと唇を曲げる。

 やがてCブロックの決勝戦にて、バディ子とタイツ男がぶつかった。リングが鳴り響くや、タイツ男が飛びかかってくる。

 苛烈なボディーブローがバディ子を『く』の字に折り曲げた。

「ぐあっ!」

「コホー、コホー?」

 しかしバディ子の身体は吹き飛ばない。

 その腹部は鋼鉄のように硬化し、黒光りしていた。むしろ、タイツ男のこぶしのほうがダメージを負い、血を滲ませる。

「玄武腹筋!」

 それは筋肉を瞬時に鎧と化し、鉄壁の防御を実現する奥義だった。

 続けざまにバディ子は身を捻り、タイツ男にラリアットを食らわせる。遠心力の乗った一撃がタイツ男の顎下にクリーンヒットした。

「コホー!」

「青龍上腕筋!」

 腕の次は脚を強化して、タイツ男を掴みに掛かる。

「白虎大腿筋!」

 相手を担ぎ、バディ子は遥か上空へと跳躍した。ジャンプのラグランジュ・ポイントで踊るようにのけぞって、力のベクトルを真下のリングに向ける。

「朱雀背筋!」

そしてタイツ男の四肢を固めつつ、墜落した。

 激突に耐えきれず、リングがひしゃげる。タイツ男は失神してしまった。

「これがサラス=バディ子の力よ! どんなものかしら?」

 バディ子が小粋なガッツポーズを決める。

 しかし審判はバディ子の勝利を宣言しなかった。大会委員と何やら相談したうえで、バディ子のKO勝ちではなく、不戦勝を言い渡す。

 その理由は、対戦相手が防具としてマスクを着用していたため、だった。

 意識を取り戻したらしいアラハムキが呻く。

「俺の試合はなんだったんだぁ~!」

 ギャランドゥ・トーナメントなどと大それた看板を掲げておきながら、そのモラルの低さに、バディ子は呆れた。ここで会える男など、たかが知れているだろう。

「もうこの大会に用はないわね」

 モリーチがウインクした。

「公式の温い大会なんて、こんなものよ。よかったら、わたしと一緒に裏の大会……ワ○ャンランドゥ・トーナメントに参加しない?」

「名前からして危ないじゃないの。でも、面白そうだわ」

 モリーチとともにバディ子は大会をあとにして、銀河へと飛び立つ。

 まだ見ぬ色男を求めて。サラス=バディ子の伝説は今、始まったのである。

 

宇宙屈指さをサラスBODY ~END~   

  

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